前節では、ヨセの大きさを測る基本的な考え方、計算法を考えてみた。しかし、これで、基本的な形のヨセの大きさは全て測ることが出来るか?答えは否である。ヨセには、もう一つ、とても大切な要素があるから。それが、この節のタイトルとなっている 『 先手と後手 』 についてです。
先手ヨセ、後手ヨセ。誰でも一度は耳にしたことがあるでしょう。そして、先手ヨセがいいのは、誰でもなんとなくでも分かる。しかし、ヨセを本当に知るためには、そのなんとなくではいけない。実は、その先手、後手の差も出入り何目というふうに大きさで表すことが出来るのです。
最初に、先手、後手で考えると、ヨセの種類にどんなものがあるかを知っておきたい。この程度のことはどんなヨセの本にも書いてありますけど。
また、ヨセは、先手が大事だから、受けてばっかりいないで、相手のヨセに手抜きする必要もあると教えられたこともありました。それも確かにその通りなんです。受けなければ、先手ヨセも後手ヨセになってしまいますからね。それから、手抜きすると損をするという気になりますが、よく考えれば、手抜きした場所で10目の損をするのなら、他の場所で11目以上のヨセを打てれば、差し引き損したことにはならないんですよね。(というか得するわけですが。)
まず、ヨセを考えた時、真っ先に打たないといけない両先手のヨセの価値について。ところで、それよりまず、両先手のヨセとはどんなものか分かるでしょうか。以下の図は、代表的な両先手のヨセです。
上の図の両先手のヨセを考えてみると、黒からヨセても、白からヨセても相手の地を2目減らすことになるので、出入りにすると、4目という勘定になります。ですから、この両先手のヨセの価値は、4目か・・・・? 素直に考えると、そうなりますが、実は、それは間違います。
そもそも、ヨセの価値を計算する意味というのは、あくまで、ヨセを大きい順に打ちたいがため行う行為。ところが、両先手のヨセに限っては、先にヨセたほうが無条件に、(上の図で言えば、2目)得をする、つまり、早いもの勝ちのヨセですよね。よって、両先手のヨセは、他のヨセの大きさと比較する必要がなく、価値の計算はしないものなんです。
普通、ヨセと言うと、序盤や中盤で打つのは、相手に手を抜かれて、後手を引き、大勢に遅れてよくないと言われていますが、この両先手のヨセに限っては、それは当てはまりません。普通は、中盤、場合によっては、序盤でも打っても構わないヨセです。打ったほうが必ず先手になるわけですからね。ただ、序盤なんかで、このヨセを打ってしまうと、相手の模様を荒らしにくくなったり、まだはっきり生きていない石を不安のない石にしてしまうなどのデメリットもあるので、すぐには打たないのです。
次に片先手のヨセの価値について。これが、第3節で一番、言いたかったことです。ここでもまず、片先手の一例の図を見てもらいましょう。
上の図の出入りを計算してみましょう。黒から打てば、白地が一目減。白から打てば、地の増減なし。
よって、このヨセは、1目の価値なのかと言えば、これもそうじゃないのです。思い出して下さい。第2節で取り扱った出入り計算に用いた図は、ヨセたほうが、必ず後手になっています。ところが、このヨセの場合、片方が(この図の場合は、黒ですね。)打った時のみ、先手になってます。従って、ちょっと事情が変わってきます。
先手になったほうは、ここでの地の損得以外に、先手で引き上げることが出来て、他の箇所にまわることが出来ます。片先手の場合は、地の増減以外に、この他の箇所にまわれることもヨセの価値の中に加味する必要があるのです。
すると、どう表せばよいのでしょうか。特別な表し方をしても、両後手のヨセと比較出来るものでないと価値を出しても意味がありませんよね。と、まぁ、もったいぶって見ましたが、実は、たいしたことではないんです。
というふうに、先手ヨセの価値は計算します。つまり、上の図の場合は、出入り1目ですが、先手の権利を加味しつつ、両後手のヨセの価値と比べるために、ヨセの価値としては、2倍の2目ということになります。
なぜ、2倍するといいのか、それは分かりません。(^_^;) でも、たしかに、片先手や両後手が混ざった図で、この計算を用いて、大きい順からヨセを打っていくと、正しいヨセになるのです。ですから、深くは考えないでおきましょう。僕もなぜだろうと、前にかなり考えたことがあるの ですが、はっきり言って、考えるのは時間の無駄ということに気が付き、それはやめました。理由を知ったところで、ヨセがうまくなるわけでもなし、知らなくても、先手ヨセは、両後手に換算して2倍の価値はあると簡単に覚えられますからね。
多分、ヨセの中で、この逆ヨセというのが、一番理解しにくいんじゃないかな。僕も今でこそ、全く疑問に思ってませんが、ヨセを勉強し始めた頃なんて、説明を読んでも、なんのこっちゃと思いましたもんね。逆ヨセとは、相手が打つ時のみ先手になる片先手のヨセの場所を後手でヨセるヨセのことです。
具体的にいうと、【 4 】の図のヨセを白からヨセた図が逆ヨセのヨセです。黒の立場から見ると、自分だけが先手になりますから、片先手ということになりますが、白の立場から見ると、後手は引いて、地の増減もありませんが、相手が先手で引き上げて他の場所にまわれるという権利もなくしています。従って、このヨセは、後手ですが、相手の先手ヨセを封じた後手ヨセということで、通常の両後手のヨセとは、やはり価値が異なります。では、どのくらいの価値になるかと言えば、実は、黒がヨセた時の価値、2目と同じです。
こういうことです。出入り計算では、自分の損得に、相手の損得も計算にいれますよね。ですから、相手が、ヨセた場合、それだけの価値があるとすれば、やはり、自分がヨセた場合もそれだけの価値があるということ。ちょっと考えれば、逆ヨセの価値は、片先手の価値と同等ということに気が付くはずです。
これ、読んでも分からない人、いるだろうなぁ。^_^; でも、ヨセを勉強していけば、必ず、近いうち、分かる時がやってきますので、心配しないで下さい。だいたい、たいして難しいことでないし、おまけに囲碁やってる人って頭がいい人、多いからなぁ。
これについては、ここで書くことはありません。どちらからヨセても後手になるヨセ、第2節で出入り計算で用いた図がそのまんま両後手のヨセです。よって、普通に出入り計算すればいいのです。
ただ、一つ付け加えば、ほとんどの場合で、ヨセの大きさ云々と言ったら、この両後手ベースの大きさを指しています。4目の大きさだといえば、両後手で、4目の大きさと言うことです。また、たまに、こんな書き方してあるものもありますね。例えば、先手2目。この場合は、もちろん、両後手換算、4目の価値のヨセということになります。
以上、ここまでのことが理解出来ていると、冒頭に述べたヨセの打つ順序より、もう少し、ヨセは、どう打てばいいかが分かります。
例えば、両後手で出入り6目の所と、片先手(あるいは、逆ヨセ)で出入り2目の所があったとして、どちらを打つほうが得かと言えば、両後手の箇所ですね。
また、反対に、両後手で出入り10目のところと、片先手(あるいは、逆ヨセ)で出入り6目の箇所があったとしたら、片先手のほうを打つほうが正しいのです。
以上。とにかくヨセは複雑なので、実は、これでもまだ、絶対の順序とはならないのですが、基本は、こんな感じです。何も知らない人よりは、確実にヨセは、正しく打てるでしょう。多分。^^;
上の説明で述べたことと反対になってしまって、混乱させてしまうんじゃないかと心配になるのですが、先手ヨセは、後手ヨセの2倍の価値というのは、絶対ではないことも知っておかなければなりません。あくまで目安です。
つまり、全局的な問題で、先手を取ることの意味が薄れる時があり、そういう時は、当然、2倍も価値はありません。一番、顕著な例で言うと、その先手ヨセが最後のヨセである場合です。先手を取っても次にヨセるところがなければ、当然、先手の価値は、全く加味できません。また、そこまで極端な話でなくても、先手を取っても、後に、有力なヨセる場所がない場合も先手ヨセに2倍の価値があるとは言い難いですね。
このことについて、碁盤掲示板で、あさださんに教えてもらった説明がすごく納得いったので、ここにそのまま記しておきます。
それぞれが式が成立するかどうかは、全局的な判断が必要になります。特に後手でも15目くらいになると、小ヨセというより大ヨセの部類に入りますから。難しいですよね。^^; 僕、個人的には、先手6目 = 後手12目の式までは、問題があることは少ないと思ってはいるのですが。