碁は、中盤に戦いはあるものの、基本的に最後には、地を争うゲームです。ということは、序盤から常に相手より少しでも大きい手を打っていれば負けることはありません。それは誰でも分かると思います。でも、その大きい手っていうのがどんな手なんかが分からないですよね。理屈だけ知っていてもしょうがないって感じ。ところが、ヨセの時期、特に小ヨセの時期とその時期に近づくにつれて、感覚とかではなく、少しの知識でそれを具体的に測ることが可能です。それをこの節では、まとめていこうと思います。

なお、ここでは必然的に、何目とかいうことを考えることになるので、そんなの大嫌い、大体、実戦で、計算してる暇がないでしょう。と思われる方もいるかもしれません。実は、僕も前はそう思ってました。ところが、まず、これを知らないとヨセそのものを理解出来ないことが分かってきたんです。この考え方を知らないで、ヨセを勉強しようとすれば、どんな小さい形でも、この形、何目かって暗記しないといけません。そっちのほうが大変ですよね。やはり基本は大事だと思う。もっとも、そんなのに興味ない人は、そもそも、ここを見てないですよね。

【1】 出入り計算

ヨセの大きさを測る時には、一般的に、この出入りという考え方が使われます。他に見合い計算というのもあるんですが、それは後でやります。

ここで、たとえ話です。Aさんは、大学生です。日頃、日給1万円のアルバイトをしています。ところがある日、友達にパチンコに誘われ、どうしても行きたくなってバイトをサボってしまいました。そして、サボってまでしていったパチンコでは、大負けで3万円もすってしまいました。(たとえが悪いなぁ。でも、こんなのしか思いつかなかった。(^_^;) )

このたとえ話を出入りという考え方を使うと、こうなります。
バイトをサボったことで、1万円を損した。
パチンコで、3万円を損した。
つまり、Aさんは、4万円を損したと考えるのです。これは誰でも分かると思います。ところが、逆の場合が少し分かりにくい。つまり、Aさんがバイトをサボらなかった場合です。その場合は、
バイトをやったことで、1万円の収入。
パチンコに行かなかったことで、3万円を損をすることを未然に防げた。
よって、Aさんは、4万円を得したと考えるのです。ゆえに、Aさんは、バイトをサボってもサボらなくても4万の収支があったと計算されます。なんか不思議な感じだと思いませんか?でも、これがヨセにおける出入り計算の原理です。

では、この考え方を使って、基本的なヨセの想定図で、ヨセの大きさを考えていきましょう。何個かやれば、すぐに、この考え方にも慣れると思います。

【 例題1 】 この図のG11の地点のヨセの価値は、何目でしょうか。
例題1
まず、白、黒、双方がヨセた図を考えてみます。
例題1の考察

すると、まず、上辺図は、白地が2目増えて、アゲハマが1個ありますから、白は3目得。つまり、黒は、3目を損したことになりますね。そして、下辺図は、黒地が1目増えてますので、当然、黒は1目を得している。ということは、どういうことなんでしょうか?

この図のようにどちらからヨセても同点を打つことになるヨセは、たとえ話の出入り計算の考え方とぴったり一致します。ですから、黒をAさんとして、たとえ話になぞらえながら、このG11のヨセの価値を計算してみます。なお、上辺図、下辺図、どちらをもとにして考えるかで2通りの考え方が出来ますね。この場合は、どちらか一方で考えるだけでいいのですが、最初ですから、両方、やってみます。

・バイトをサボってパチンコに行った場合。 ⇒ 上辺図をもとに考える。
パチンコで3万の損 ⇒ 白にG11に打たれて3目の損。(上辺図)
バイトをサボったので、1万の損 ⇒ 黒がG11に打った図(下辺図)の放棄で1目損。
3万+1万で、4万の損 ⇒ 3目+1目で黒は4目の損。
・バイトをサボらなかった場合。 ⇒ 下辺図をもとに考える。
バイトで一万の収入 ⇒ 黒がG11に打って、1目の地。(下辺図)つまり、1目得。
パチンコに行かなかったので、3万を損しなかった ⇒ 白にG11に打たれた図(上辺図)を回避出来たので3目得。
1万+3万で4万の得 ⇒ 1目+3目で黒は4目の得。
よって、Aさんは、バイトに行っても行かなくても4万の収支があったと計算出来る。 ⇒ 黒は、白からヨセた図(上辺図)をもとに考えても、黒からヨセた図(下辺図)をもとに考えても4目の損得があったと計算出来る。
ゆえに、この序盤の形勢は互角とみることが出来ます。
今回の出入り計算の流れをまとめると、
  1. まず、黒からヨセた図を想定し、その大きさを計算する。
  2. 次に、白からヨセた図を想定し、その大きさを計算する。
  3. 1と2で計算された大きさを黒、あるいは白の立場から見た損得計算に直す。それが、出入り計算によるヨセの価値となる。

分かったでしょうか。出入り計算としては、これが一番単純なものですので、しっかりマスターしましょう。これが分からないと複雑なものに全くついていけなくなります。なお、ここでは、複雑なヨセの計算にふれるつもりはないので、あと例題2題、似たような問題なので、解いてみて下さい。

【 例題2 】 この図のG13の地点のヨセの価値は、何目でしょうか。
例題2
黒、白、双方からヨセた想定図です。
例題2の考察
では、黒の立場から考えることにします。
黒からヨセると、地1目+アゲハマ1目=黒は、2目得
白からヨセると、白に地はつかない。よって、黒に損得なし。
よって、2目+0目=2目
ゆえに、G13の地点のヨセの価値は、出入り計算によると、2目です。
簡単ですよね。最後に、もう一問、これは、ヨセの想定図が今までと少し違う(同点のヨセにならない)問題ですが、この場合は、同じように考えることが出来ます。
【 例題3 】 この図のヨセの価値は、何目でしょうか。
例題3
黒、白、双方からヨセた想定図です。
例題3の考察

この例題のように、双方からヨセた場合、同点にならないヨセは、一手では、解決しません。そこで、こういうヨセの価値を計算する場合は、一段落するまでを一つのヨセとみなします。よって、想定図は、上のような図になります。そして、やはり、この2つの図を比較することによって、出入り計算します。

では、黒の立場から考えると、
黒からヨセると、(上辺図) 黒地、増減なし。白地、1目減。
⇒白地を一目減らしているので、黒は1目得。
白からヨセると、(下辺図) 黒地、1目減。白地、増減なし。
⇒白が1目得なので、黒から見ると、これを回避できたとして、これも1目得。
よって、このヨセの価値は、出入り2目ということになります。
例題は以上です。
◆ 最後に、もし、最終局面で、これら例題1、2、3のヨセが残っていたら、どのヨセを打ちますか?
<例題1 出入り4目> <例題2 出入り2目> <例題3 出入り2目>

答えは、もちろん、例題1のヨセですよね。ヨセは、自分だけが打てるものではないので、先に、例題2や3のヨセを打ったりすると、相手に例題1のヨセを打たれて、正しい順序で打った場合より、この場合、2目も損してしまうんです。

念のため、計算します。
先に、例題1のヨセを打てれば、
4目得(自分)−2目得(相手)+2目得(自分)=自分は4目得。
例題2のヨセを最初に打ってしまうと、
2目得(自分)−4目得(相手)+2目得(自分)=自分は得なし。
4目−0目=4目。つまり、出入りで4目損。それで、これは、出入りで計算された価値ですから、実際の目数は、その半分です。
よって、間違ってヨセると、正しくヨセた時より、2目少ない結果になるのです。

【2】 見合い計算

一般的には、ヨセの価値は出入り計算で割り出すものですが、もう一つ、見合い計算という方法もあります。この計算法は、双方からヨセた場合に双方が均等になるような仮定の線引きを考えて、そこから、何目になるか割り出す方法です。

出入り計算の時のたとえ話を例にあげると見合い計算では、
まず、半日、バイトをさぼってパチンコをして、もう半日は、バイトをした。という状態を一番、ノーマルな状態と考えます。本当ならありえない話ですが、これが仮定の線引きです。
実際に数値に直すと、
半日バイト⇒ 1万円得÷2= 5千円得
半日パチンコ⇒ 3万円損÷2= 1万5千円損
つまり、1万5千円−5千円=1万円損することが、この場合の仮定の線引きです。そして、これをバイトを一日さぼった場合、あるいは、一日サボらなかった場合と比べることによって、価値を計算します。
バイトを一日サボった場合と比較すると、
パチンコで3万円損 ですから、
3万円損−1万円損(仮定の線引き)=2万円損
また、一日バイトをサボらなかった場合と比較すると、
バイトで1万円得 ですから、
1万円得−1万円損(仮定の線引き)=2万円得
ゆえに、Aさんは、見合い計算では、いずれの行動をした場合でも2万円の収支があったと考えることが出来ます。分かったでしょうか。

この計算法もヨセの価値を計算するのには、有力な方法です。しかし、重大な欠点があるので、一般的には、用いられません。それは、見合い計算の前提となる仮定の線引きが少し複雑なヨセになると、考えるのが難しいからです。ただし、出入り計算の例題3つのような簡単なヨセの場合だと仮定の線引きは分かりやすいので、使えます。

例題3つの中でも、例題3の場合が一番、見合い計算しやすいので、実際に計算してみましょう。

ヨセの想定図は同じですので、あとは仮定の線引きの図ですが、
見合い計算の考察
上の図のように、双方、ハネないで、下がった形になります。これをどちらでもいいのですが、黒からヨセた想定図と比べててみます。
白地は1目減ですから、黒は1目得。
よって、このヨセは、見合い計算では、1目の価値があると計算されます。

例題3のような双方がヨセた想定図を重ね合わせた時、左右対称になる形なら、仮定の線引きが簡単なので、出入り計算より分かりやすい計算方法なんですが・・・。実戦の時、考えてみれば分かると思いますが、そうならないほうが圧倒的に多いんですよね。

なお、ここまできて気づいた方もいるかもしれませんが、出入り計算と見合い計算では、価値が2対1の関係になっています。

出入り計算による価値 = 見合い計算による価値×2
意味もなく公式にしてみました。(笑)

以上でヨセの尺度について終わります。かなり細かく説明したつもりですが、余計、分からなくなった方、いたりして。(^_^;)